大規模修繕工事はトラブルを想定して計画を
多くの人や高額のお金が動く大規模修繕工事は、何のトラブルも起きずに終えることは、ほぼ不可能と言ってよいでしょう。
大規模修繕工事を安全に終えるためには、「トラブルが起こらないようにする」だけでなく、「トラブルを想定して先回りする」ことを、意識することが大切です。
トラブルの原因と対策を把握しておく
大規模修繕工事のトラブルには、事前に予測して回避できるものもあります。
予測されるトラブルに対し、関係各所にはあらかじめ相談と連絡を徹底しておき、万が一トラブルが発生した時に備えて、管理組合の理事会と関係者の双方で、対策方法を用意しておきましょう。
大規模修繕工事の主体は管理組合
稀に管理組合から何の通知や連絡もない、極端な場合には大規模修繕工事をやるのかについて議題にすら上らないということもあります。
大規模修繕工事は準備段階から長期的な視点で計画をたて、費用の見積もりを行い、工事内容を吟味していく必要がありますから、主体である管理組合が中心になって動かなければなりません。
たとえ修繕委員会を設置していてとしても、理事会や組合員と協力して修繕工事が問題なく完了できるように管理組合として行動していく必要があります。
主体である管理組合が適切に機能していることが、大規模修繕工事を成功に導く大きな鍵となるのです。
修繕積立金にまつわるトラブル
工事内容に関わること以外の重要な準備として、費用を見極める必要があります。多額の資金を必要とする大規模修繕工事では費用を確定して積立金の過不足を見極め、不足があればそれをカバーしておかなければなりません。
積立金不足はしばしば起こる問題ですが、解決にはいくつかの方法があります。不足額が
それほど大きくない場合には、事情を説明して居住者から追加徴収するのが早く確実な方法です。
しかし不足額が大きい場合、居住者からクレームがきたり理解が得られずに工事そのものが宙に浮いてしまう事態も考えられます。
不足の原因究明は当然必要ですが、そうした事態にならぬよう工事内容を見直すことも選択肢の一つです。緊急性の低い部分の工事は次回に回す、場合によっては工事そのものの時期を遅らせるなどの対処が必要です。
また不足分を金融機関から借り入れることもあります。最終的には居住者が返済していくことになるので、十分に理解を得る必要があるのはこれも同様です。
このように大規模修繕工事では準備にも多くの時間や手間を必要とします。工事が始まってからでは間に合わないこともあるので、十分に余裕をもって計画し実行していくことが重要です。
管理会社の手数料が高い
大規模修繕工事をどこに依頼するかは、管理組合にとってとても重要な問題です。複数社から見積書をとって比較検討するのは当然として、金額だけで判断するのも危険です。
大規模修繕工事を体験した居住者や建築関係の知識がある入居者がいれば大いに助けとなるのでしょうが、修繕工事の内容と費用の妥当性を判断するのは素人には難しいものです。
管理会社に依頼することで大規模修繕工事のスケジュール作成から工事の手配、監督から確認まで全て行ってもらえるというのは、管理組合にとっては大歓迎です。しかし、喜んでばかりはいられません。
管理会社もボランティアではありませんから、当然タダではやりません。工事金額に対して2〜3割程度の仲介手数料、紹介料を取るケースが多く見受けられます。この手数料が高額でトラブルになることがあります。
2〜3割の手数料ということは、1,000万円の工事だと200〜300万円が実際の工事費用とは別に消えていくということですから、黙って見過ごすわけにはいきません。工事内容の確認と共に、手数料についても交渉してみましょう。
コンサルタントに丸投げしない
大規模修繕工事を行うために、建築士等にコンサルタントを依頼するケースも少なくありません。どこに工事を依頼すれば良いのかわからない、第三者の視点で選びたい場合に有用な方法です。
しかし近年、この頼りになるはずのコンサルタントによる不正が問題となっています。
コンサルタントが業者を選ぶ権限を利用してキックバックを得ていた、自分が意図する業者に落札させる目的で談合を指示していたなどの事例が報道されています。
公正な視点を求めてコンサルタントを入れたのに、これではたまったものではありません。
見積書を詳細に比較検討してみる、他のマンションの施工事例などを調べる、場合によってはコンサルタントの評判をチェックすることも必要です。
いずれの場合でもコンサルタントに丸投げして後はノーチェックではなく、管理組合として検証してみることが重要になってきます。
大規模修繕のトラブル原因は3つ
大規模修繕工事中に発生するトラブルは、トラブルの原因ごとに3つに分けることができます。
まず、大規模修繕工事の関係者を大きく分けると、
- マンションに住む居住者
- 工事を執り行う設計業者や工事会社
- マンション外部の人
になります。
管理組合は、上記の人たちとのトラブル対策を、前もって用意しておかなければなりません。
居住者とのトラブルと対策
最もトラブルが起きやすいのが、大規模修繕工事を行うマンションに住んでいる、居住者です。
居住者とのトラブルの例
- 事前に知らされていない箇所の工事が始まった
- 工事説明会で伝えられた期間以上に工事が行われている
- 業者が急にベランダに入って工事を始めた
- 業者の荷物や車が邪魔で通行できない
- 想像以上の騒音と異臭で生活できない
- 修繕積立金が不足しているが、一時金の徴収に住民が納得しない
- 工事に非協力的な住民が工事を妨害している
などです。
居住者とのトラブルを回避するためには
居住者とのトラブルは、工事前・工事中・工事後に、徹底してコミュニケーションを取ることによってある程度防ぐことができます。
工事の内容や目的を、住民説明会で資料を添えて伝えることはもちろん、工事中に工事期間の変更や突発的な作業などが発生すれば、都度、マンションの掲示板や各住戸に配布するチラシなどで伝えておきましょう。
管理組合と施工会社は、工事期間中に定期的な報告会を開催して、居住者から出たクレームを共有し、再発を防ぎ、今後の工事で被害を被る住民がいないか再度検討していく必要があります。
管理組合の方必見!マンションの大規模修繕工事の進め方や流れは?
著しい妨害行為には正当な対応を
共有部分は、区分所有者全員の資産であり、大規模修繕工事は、その資産を守るために行われるものです。
区分所有法第6条では、区分所有者は、
- 建物の保存に有害な行為
- 区分所有者の共同の利益に反する行為
をしてはならないと定められています。
つまり、総会で実施が決定した大規模修繕工事を妨害する行為は、「区分所有者の共同の利益」に反する行為となり、管理組合は、妨害行為を行う住民に対し、総会の決議を経て、訴訟を起こすことも可能です。
訴訟に発展する前に、弁護士に経緯を相談するなどして対策を講じることはもちろん、工事の準備段階で、時間をかけて、できるだけ多くの住民に工事の実施を理解してもらうことが、何よりも重要と言えるでしょう。
施工会社とのトラブルと対策
施工会社も人間ですので、作業の誤りや思いがけない予定変更などのトラブルが起きてしまうこともあります。
施工会社とのトラブルの例
- 管理会社が用意した業者の施工品質が低かった
- 工事期間が大幅に遅れた
- 住民と施工会社で揉め事が発生した
- 追加工事費用を請求された
- 契約後に工事が行えないと伝えられた
- 工事完了後に施工不良が発覚した
などです。
施工会社とのトラブルを回避するためには
追加工事費の請求や、契約不履行などのトラブルは、業者と契約書を交わす前の情報収集にかかっています。
管理会社が用意した施工会社と安易に契約してしまった結果、施工品質が悪かった、追加工事費用を請求された、ということにならないよう、複数の業者から見積もりを取って決定しましょう。
また、管理組合の顧問弁護士がいる場合は、施工会社と契約書を交わす前には、弁護士に契約書の内容を精査してもらい、管理組合が不利になる条件が記載されていれば、契約書の修正を要求するなどの慎重さも大切です。
設計監理方式で施工品質低下を防ぐ
施工品質の低下は、第三者の施工監理者を置くことで防ぎやすくなります。
施工会社と関わりのない、中立的な立場の設計事務所や建築士と契約し、施工品質のチェックを依頼する「設計監理方式」での発注をおすすめします。
施工不良は瑕疵保険で補修を依頼する
業者によっては、施工不良を認めてもらえなかったり、すぐに工事に取り掛かってもらえないことがあります。
瑕疵保険に事業者登録している業者であれば、補修費用は瑕疵保険から支払われ、工事後の品質検査も、瑕疵保険業者から派遣された第三者が、公平な視点でチェックしてくれます。
マンション外部の人とのトラブルと対策
大規模な工事が長期間続く大規模修繕工事は、時に、マンション周辺の住民にも何らかの被害が生じることがあります。
マンション外部の人とのトラブルの例
- 騒音が周辺の住宅まで響く
- 工事車両が頻繁に出入りして不安
- 設備業者の手違いで周辺の住宅まで水道が使えなくなった
- 足場から空き巣が侵入した
などです。
外部の人とのトラブルを回避するためには
マンションの周囲に住む人とのトラブルも、工事前の事前連絡と、工事中のまめな報告で回避していかなければなりません。
大規模修繕工事の工事期間を伝えておき、騒音や異臭、車両の移動が発生する期間を、具体的に伝えておきましょう。
外部の人との相談窓口を設ける
トラブルを悪化させないためには、早急な解決が鍵となります。
外部の人からのクレームを迅速に受け取って、謝罪や解決策を素早く伝えるためにも、管理組合の連絡先をマンション外部の人にあらかじめ伝えておきましょう。
空き巣の被害が出たら
大規模修繕工事では、枠組み足場から空き巣が侵入し、窃盗や窓ガラスの破損といった被害が生じることもあります。
この場合、住民の行動に落ち度はないため、大規模修繕工事を執り行った工事会社が加入している工事保険から保険金が降りるのが一般的です。
工事会社と契約する前に、どのレベルまで補償できる工事保険に加入しているかもしっかりチェックしておきましょう。
管理組合でトラブル回避術を共有する
トラブルがなぜ起きて、どうやって解決したのかという事例を知っておくことで、管理組合は行動の選択肢を増やすことができます。
もし自分たちの身にトラブルが降りかかっても、すぐに行動できるように、トラブルの事例は、理事会などを通じて、管理組合全員で共有しておきましょう。
過去の大規模修繕工事のトラブル事例を参考にする
過去に大規模修繕工事を経験したマンションであれば、管理会社の担当者や設計図書の内容から、当時発生したクレームの内容を調べることができます。
あるいは、別のマンションで大規模修繕工事を経験した住民がいれば、理事会に呼んで当時の経験を発表してもらい、どのようなことで困ったか、どのような対応を求めたかなどのヒヤリングを行うと良いでしょう。