大規模修繕におけるマンションの建物調査診断や劣化診断とは?

建物調査診断(劣化診断)の内容

長い年月をかけ、高額な費用を支払って行うマンションの大規模修繕は、余計な費用を省き、綿密な長期修繕計画を立てて、効率よく進める工夫が必要です。

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建物調査診断を行うことによって、工事の必要性に優先度がつき、資金計画を立てやすくなります。

建物調査診断の目的

補修が必要な箇所を見抜き、一度の工事で無駄なく補修を行うことは、建物の耐久性を、より長期的に保つことに繋がります。

さらに、工事が必要ない軽微な劣化であれば、次回の大規模修繕まで見送って、一回の修繕にかかる工事費用を抑えることも可能です。

しかし、建物に起きている劣化や、その劣化が補修を必要とするほど危険かどうかは、建築の専門知識がない管理組合では判断できません。

そのため、マンションの大規模修繕では、工事前に、設計事務所や施工会社などの専門家による、建物調査診断(劣化診断)が実施されます。

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建物調査診断のチェック項目

  • 外壁(タイル、塗装、コンクリート、シーリング)
  • 鉄部(手すり、階段)
  • 給排水管配管設備
  • 電気設備
  • 防水性(ベランダ、廊下、屋上)
  • 耐震性

建物調査診断では、主に上記の箇所を、目視や打診で検査します。あるいは、建物の設計図から、耐震基準が建築基準法に適合しているかなども調べます。

また、居住者にアンケートを実施し、普段の生活で気になっている箇所のヒヤリング調査も管理組合に代わって実施してもらうことが可能です。

劣化診断は外壁と共用部の調査がメイン

マンションの大規模修繕工事のうち、最も実施件数が多いのが、外壁の修繕です。外壁の補修は、美観の向上だけでなく、建物の耐久性を保護するためにも非常に重要な作業です。

タイル材や塗装の剥がれ、目地部分のシーリング材の浮きや痩せ、コンクリート部分のひび割れや鉄筋の腐食などを補修することで、建物の防水性や耐久性を高めることができます。

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さらに、マンションの構造材に使われている、コンクリートの中性化深度の調査も、建物調査診断では重要な項目です。

コンクリートの中性化とは

コンクリートはアルカリ性の物質です。このアルカリ性によって、コンクリート内部の鉄筋は、錆びることなく丈夫に保たれ続けます。

しかし、空気中や水分に含まれる二酸化炭素にコンクリートが反応すると、内部で酸性の物質が生じるようになり、中性化してしまうことがあります。

中性化してアルカリ性が失われると、コンクリート内部の鉄筋が錆びて腐食したり、錆びで膨張したコンクリートが剥がれ落ちたりして、大きく強度を落としてしまいます。

中性化を防ぐためには、コンクリート内部への、空気や水分の侵入を遮断しなくてはなりません。

そのため、大規模修繕工事で、コンクリート表面の塗装やひび割れの補修を行うことは、建物の寿命を延ばすためにも非常に大きな意味があるのです。

建物調査診断の種類と費用

建物調査診断は、機械を使った広範囲な有料診断と、目視や打診による簡易な無料診断があります。

管理会社主導で大規模修繕工事を行う場合、建物調査診断の種類までは選ぶことができませんので、どちらのケースがよいかは、マンション管理士などのコンサルタントに相談するとよいでしょう。

無料診断の場合

無料診断は、主に、目視と打診で劣化診断を行います。

診断箇所は、有料診断とほぼ変わりはなく、マンション全体の耐久性を調べてもらうことができます。

無料診断のメリット

無料の簡易調査でも、早めに補修が必要な箇所は調べることができるため、決してその信頼性が低いことにはなりません。

また、診断後は調査報告書も作成してもらえるため、長期修繕計画の作成や、住民説明会への資料として多いに役立てることができます。

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無料診断のデメリット

無料診断では、マンションの区分所有エリアまでは立ち入らず、あくまでも、外観や共用部までの目視・打診となっています。

そのため、コンクリートの中性化や、内部の鉄筋の腐食、専有部分で起きている水漏れや漏電といった配管の異常、耐震性までは、正確に調べることができません。

無料診断で済ませるかどうかは、管理組合で判断せず、設計事務所や工事会社など、最終的に、専門家の意見を取り入れたほうが良いでしょう。

また、簡易診断を選んだ場合でも、診断費用を別途請求されることがあるため、実施する前に施工業者に費用の有無を必ず確認しておくことをおすすめします。

有料診断の場合

有料診断では、機械や器具を使った、より精度の高い調査報告書を作ることができますが、工事費用とは別に、調査料が発生することを把握しておきましょう。

有料診断のメリット

有料診断では、無料診断で調べた箇所に加えて、配管設備の劣化や断熱性能といった、各居住者の専有部分の現状も調べてもらうことができます。

また、専有部分内で起きている、水漏れや漏電を見つけることは、居住者全体の安全な生活を守ることにも繋がります。

さらに、目視や打診だけでなく、精密機器を使ったり、命綱をつけて高い位置の外壁を直接目視したりといった精度の高い調査で、劣化の進行度や耐震性などを正確に調べることが可能です。

有料調査にもとづく具体的な診断報告書があれば、理事会や居住者からの、大規模修繕工事への理解も深めることができるでしょう。

有料診断のデメリット

有料診断では、数十万円という費用が、工事費用とは別に発生します。

有料の建物調査診断の費用は、

  • 約30戸以下のマンション:約15~40万円
  • 約50戸のマンション:約30~50万円
  • 約100戸のマンション:約30~80万円
  • 約200戸以上のマンション:約50~100万円

が相場となっています。

数百~数千万円という工事費用に加えて、診断に上記の費用が発生し、専有部分への立ち入り調査なども必要になるため、有料診断そのものへの合意も、居住者と形成しなければなりません。

また、建物の構造によっては、昇降式のゴンドラが使えなかったり、特殊な安全器具が必要となったりするため、調査費用が割高になることがあります。

長期修繕計画をより正確なものにするためにも、工事費用だけでなく、調査費用のみの見積もりも取っておきましょう。