マンションの長期修繕計画とは
マンションも建築物である以上、年月の経過とともに、様々な箇所で劣化や不具合が生じます。
小さな劣化を放置し続けると、鉄部の劣化や外壁タイルの剥がれによって建物の耐久性が低下するだけでなく、漏水や停電が頻発するようになり、住民の生活トラブルにも繋がりかねません。
そのため管理組合は、長期修繕計画書を作成して、大規模修繕工事のタイミングや、修繕積立金の予測と確認、工事項目ごとの修繕方法などを取りまとめておく必要があります。
長期修繕計画の作成は管理組合の義務
国土交通省が定めた『マンション標準管理規約』によると、管理組合には、長期修繕計画を作成し、見直す義務があるとされています。
長期修繕計画には、工事箇所や修繕スケジュールだけでなく、修繕積立金の額なども盛り込まれるため、作成または変更にあたっては、理事会の決議と区分所有者からの理解が必要です。
なお、長期修繕計画の作成は管理会社に任せることもできますが、内容の妥当性や、管理会社と工事会社同士の癒着を確認することは難しく、管理会社がマンションの実態を理解していない可能性もないとは言い切れません。
そのため、管理組合主導で長期修繕計画を作成することは、実際にそのマンションで暮らす住民にとって、最も理想的な修繕に近づけるためにも、非常に重要な意味を持っています。
『マンション標準管理規約』とは
『マンション標準管理規約』とは、国土交通省が作成した、マンション管理規約のガイドラインです。
単棟型のマンションや、店舗が混在する複合用途型のマンションなど、マンションのタイプごとに、管理規約の中で基本的に設けるべき項目が制定されています。
例えば、建物の専有部と共用部の範囲や駐車場の利用方法といった、マンションの基本的なルールに加え、管理組合の構成や権限といった組織づくりについても定められています。
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長期修繕計画の作成・運営について
長期修繕計画の作成が必要なのは、新築マンションだけではありません。
既に長期修繕計画書が作成されている既存マンションでも、マンションの実情に応じた見直しが必要です。
例えば、修繕積立金だけでは大規模修繕工事の費用が賄えない時や、想定以上に劣化が進行しており、試算した費用で補修が追い付かない時などには、長期修繕計画が実情に見合っていない可能性があります。
さらに、長期修繕計画書は、区分所有者がいつでも閲覧できる状態で保管しておかなければなりません。
そのため、マンションの実態に限りなく近い、最新の長期修繕計画となっているか、管理組合は常に確認しておく義務があります。
長期修繕計画の雛形を利用する
長期修繕計画には、国土交通省が作成した「長期修繕計画の標準様式」という雛形があります。
また、どのような項目を盛り込むべきかを網羅した「長期修繕計画のガイドライン」も用意されています。
そのため、マンションの設計資料の見方に慣れてない管理組合でも、雛形やガイドラインを使いながら、ある程度作成できるようになっています。
長期修繕計画の内容とは
長期修繕計画は、工事項目ごとの費用、修繕計画の期間、計画期間中の収支、修繕積立金の制定理由を、主な項目として構成されています。
推定修繕工事項目と修繕費用
長期修繕計画では、修繕が必要な箇所を「推定修繕工事項目」としてまとめる必要があります。
標準様式では、主に以下の箇所について、細かい工事項目の欄が用意されています。
- 屋根防水
- 床防水(バルコニー、開放廊下、階段など)
- 外壁塗装等(コンクリート、外壁、タイル、シーリングなど)
- 鉄部塗装等
- 建具、金物等(手すりや鉄階段、集合ポストなど)
- 共用内部
- 給水設備
- 排水設備
- ガス設備
- 空調、換気設備
- 電灯設備等(電灯、配電盤、避雷針など)
- 情報、通信設備(電話、テレビ、インターネット、インターホンなど)
- 消防用設備
- 昇降機設備
- 立体駐車場設備
- 外構、附属設備
- その他
これらの工事項目に対して、過去の修繕履歴などから工事単価を設定し、工事量に沿って推定の修繕費用を算出し、長期修繕計画に反映させていきます。
この中でも、鉄部や外壁目地のシーリングなどは、外壁や機械設備に比べると劣化がやや早い傾向にあるため、場合によっては、大規模修繕工事以外で補修を実施しなければなりません。
そのような箇所について、できるだけ修繕のタイミングを合わせ、足場設置や業者の人件費などを1回分にまとめることも、長期修繕計画の大切な目的です。
修繕期間の設定
国土交通省のガイドラインによれば、長期修繕計画は、新築マンションであれば30年以上、既存マンションであれば、25年以上の計画を定めることが推奨されています。
よって、管理組合では、約25~30年先の修繕計画について、常に予測し、修繕積立金や劣化の進行状況に応じて見直しを行わなくてはなりません。
長期修繕計画内の収支
1回あたりの工事費用相場が、約1000~3000万円と言われる大規模修繕工事を、無理のない範囲で適切に行うために、長期修繕計画の中では、修繕の収支計画を作成します。
通常、大規模修繕工事の費用に充てられるのは、区分所有者から徴収する「修繕積立金」です。
しかし、工事の規模やタイミングによっては、修繕積立金だけでは工事費用が賄えないこともあり、そのような場合は、居住者への一時金の徴収や、金融機関などからの借り入れも検討しなくてはなりません。
急な一時金や想定外の借り入れによる、区分所有者からの反発や、大規模修繕工事の遅れなどを防ぐためにも、実際の修繕積立金の累計額に応じた収支計画を立てておく必要があります。
国土交通省の標準様式には、約30年分の修繕スケジュールに合わせた収支の予測グラフが添付されており、大規模修繕工事のタイミングと、それまでに集められる修繕積立金を、グラフから予測することができます。
修繕積立金の制定理由
区分所有者から徴収する修繕積立金は、大規模修繕工事の費用を下回っても、大きく上回ってもいけません。
区分所有者からの理解を得て、理事会の承認を通るためには、30年分の修繕計画に応じて、均等に割った金額を算出する必要があります。
標準様式の中には、マンションのタイプ別に、修繕積立金を算出する表が付いており、それぞれの欄を埋めることで、区分所有者にもわかりやすい、公正な修繕積立金を算出できるようになっています。
長期修繕計画を作成する意味
これまで解説した通り、長期修繕計画とは、将来に渡って何度も繰り返し行われる、マンションの長期的な修繕計画を予測するものです。
しかし、約25~30年分にもおよぶ長期間の修繕計画は、簡単に作成できるものではありません。
さらに、長期修繕計画は、マンションの実情に応じて定期的に内容の見直しが必要とされており、その運用は管理組合にとって負担でもあります。
ですが、長期修繕計画の作成には、マンションの維持管理を円滑に進めることと、修繕積立金を適正に使用して、区分所有者の負担を減らすことという、大きな意味があります。
長期修繕計画の作成は、マンションコンサルタントなどに依頼することも可能ですし、管理組合自身で作成することも可能です。
長期修繕計画の作成費用は?作成ソフトやエクセルでの作成方法も解説
マンションを長期的に維持管理する
大規模修繕工事は、一回限りではなく、約10~13年ごとに実施する必要があります。
高額な費用を伴う大規模修繕工事を、約10年ごとに、修繕積立金の範囲内で実施するためには、綿密な計画が欠かせません。
いざ大規模修繕工事が必要になった時に、修繕積立金が不足して工事が行えず、劣化が進行することのないよう、あらかじめ約30年分の長期修繕計画を立て、常に最新の状態に見直しておく計画性が大切です。
修繕積立金を無駄なく使う
区分所有者から徴収する修繕積立金は、大規模修繕工事だけではなく、災害や事故による建物の補修にも充てられることがあります。
そのため、マンションの実態に即していない無謀な修繕計画や、その場の思い付きで不要な工事を繰り返していると、修繕積立金が底を付いてしまい、次の大規模修繕工事を行えない恐れがあります。
つまり、長期修繕計画とは、このような事態を防ぐために、長期的に発生する修繕費用と修繕積立金のバランスを予測するためのツールとも言えるでしょう。