マンションで行う大規模修繕工事の目的
マンションの大規模修繕とは、約12~15年に一度行われる、建物全体におよぶ修繕工事のことです。
マンションに限らず、建物は年月と共に劣化していきます。この劣化を放置しておくと後々補修等の費用がかさむのみならず、事故の原因になるなど生活を脅かすことにもなりかねません。
ことにマンションのような高層建築物の場合、外壁が剥がれて落下する危険性を放置しておくことは歩行者を巻き込む大事故につながりかねないため、定期的な点検や修繕が必要になってきます。
外壁部分だけではなく、マンション屋上やベランダ等の防水機能や機械設備、給排水管などの設備も同様です。
戸建て住宅であれば所有者の責任において設備を更新していきますが、マンションの場合には住民による組織である管理組合が中心になって修繕計画を策定していきます。
大規模修繕工事で資産価値を守る
マンションの建物の保存状態は、「資産価値」で評価されます。
マンション管理組合は、経年劣化で建物の資産価値が低下しないように、無理のない費用で定期的に大規模修繕工事が実施できるよう、修繕計画を立てなければなりません。
修繕の必要があるのに手を入れずに放置しておくと、建物の傷みはどんどん進んでいきます。逆の立場になって考えるとよく理解できると思いますが、あちこち劣化したマンションを買いたいと考えるでしょうか?
このように劣化を放置しておくことは事故につながってしまう可能性があり、住民の安全安心を脅かすと共に、マンションの資産価値に直結してくる問題なのです。
大規模修繕工事の定義
大規模修繕工事では、修繕と改修という2つの工事が行われます。
「修繕」とは、劣化・故障した箇所を元の状態に戻すことを指します。剥がれたタイルを貼り直す、ベランダ防水をやり直す、割れたガラスを交換するなどがこれに該当します。
修繕することで何か新しい価値が生まれるわけではありませんが、劣化や故障によって生じた不具合を解消し、元の機能を取り戻すことができます。
一方、「改修」は、修繕だけでなく、元の状態よりもグレードや性能を改良することも含まれます。
たとえば屋上の防水機能を回復させる工事と同時に、ヒートアイランド現象回避を兼ねた緑化を施す、防犯ガラスに入れ替える。築年数がある程度経過したマンションの玄関に、オートロック機能を取り入れる等が考えられます。
大規模修繕工事でメインとなるのは「修繕」ですが、最新のバリアフリー設備を導入したり、断熱性や防犯性を見直したりする「改修」リフォームも適宜検討する必要があるでしょう。
修繕と改修の違いは?大規模修繕を検討しているマンション管理組合の方は必見です!
共用部の劣化と修繕
大規模修繕工事で主に手が加えられるのは、マンションの共用部です。
分譲マンションでは、居住者の専有部については、購入した居住者が管理することになりますが、それ以外の共用部の劣化については、居住者全員で維持管理に努めなければなりません。
個別の部屋についてはわかりくい部分がありますが、基本的には部屋(ドア)の内側が専有部分、ドアの外側からが共有部分と見なされます。ですから勝手にドアを交換したり、外側の色を変えることはできないことになります。
また各部屋のベランダについては共用部分という位置付けになることに注意が必要です。日常的な使用は個別住民に任されていますが、非常時の場合の経路となることから、塞いだり避難を妨げる物を置くことはできません。
これ以外にも細かい条例が各マンションによって定められている場合がありますから、一度チェックしておくと良いでしょう。
修繕工事が必要になる共有部の例
- エントランスホール
- 共用廊下、階段、エレベーター
- 会議室
- 駐車場・駐輪場
- 電気、水道、ガスなどの配線・排水管
- 各住居のベランダ、バルコニー、窓サッシ、玄関ドア(外側)
- 外壁、屋根、屋上
大規模修繕工事の基礎知識
多くの分譲マンションで実施されている大規模修繕工事は、周期・工事期間・費用の相場がおおむね決まっています。
大規模修繕工事の周期
大規模修繕工事は、一般的には12~15年に1度行われるケースが多いようです。建築物等が劣化する目安として10年ということの他に、平成20年に厳格化された建築基準法の影響もあるでしょう。
マンション等の不特定多数が居住、出入りする建物は特殊建築物と呼ばれますが、特殊建築物については建物状況の定期報告が義務付けられています。
さらに前回改修時から10年を超えている場合には、外壁の全面打診調査を行わなければなりません。タイルやモルタル等の落下を想定した調査ですが、実際に落下事故が起きていることを考えると必要な調査だと言えます。
危険部位についての対策がなされている、3年以内に改修工事が予定されている場合はこの限りではありませんが、命に関わることですので適切に対処していく必要があります。
また一部自治体では、定期報告について結果を公表しています。
しかし、マンションの立地や外壁材の種類によっては、10年以内に劣化を迎えることもあります。たとえば海に臨むマンションは美しい景色を楽しめますが、塩分を含んだ潮風によって外壁の傷みは通常よりも激しいものになります。
外壁材を選ぶことで傷みは軽減できたとしても、修繕等のメンテナンスはより計画的に行う必要があります。
大規模修繕工事にかかる期間
大規模修繕工事は、約20~40戸程度の分譲マンションで約3カ月、約50戸以上の分譲マンションになると、約3カ月から半年の工事期間になることがあります。
約100戸以上の分譲マンションであれば約1年以上かかることもあり、約200戸以上の大型マンションや高層マンションなどは、約2年以上の工事になっても不思議ではありません。
このように長期間に渡って修繕を行っていくものですから、居住者や周辺の安全対策も必要になってきます。
大規模修繕工事の平均的な費用
平成25年に東京都が実施した「マンション実態調査」では、調査対象となった分譲マンションのうち35%で、大規模修繕工事の費用が、約1000~3000万円を超えたことがわかっています。
部位別・大規模修繕工事費用の例
- 足場仮設費用:約300~400万円
- 外壁工事:約300~900万円
- 外壁タイルの浮きや剥がれ補修:約150~200万円
- ベランダや屋上の防水工事:約3000~8000円(平方メートルあたり)
- 鉄部の塗装:約1000~3000円(平方メートルあたり)
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大規模修繕工事の前準備
大規模修繕工事を成功させるためにも、管理組合だけでなく、居住者やコンサルタントの力も借りながら、準備を進めていきましょう。
1.修繕委員会の立ち上げ
管理組合の理事会は、通常の業務もこなさなくてはなりません。さらに、長い工事期間を要する大規模修繕工事の最中に任期を終える可能性もあります。
そのため、役員以外の居住者で修繕委員会を立ち上げ、役員に代わって大規模修繕工事について話し合うメンバーを集めておくと良いでしょう。
大規模修繕委員会とは?細則からメンバーの募集方法まで徹底解説!
ただし、最終的な議決権は理事会が持っており、専門委員会だけでは大規模修繕工事の実施を議決することはできません。
2.コンサルタント選び
建築の知識がない、または大規模修繕工事を経験したことがない理事会や修繕委員会だけでは、大規模修繕工事を問題なく進めることは厳しいと言えます。
さらに、マンションの管理会社に業者選びや工事内容のチェックを任せきりにしてしまうと、費用や工事内容の妥当性を、管理組合で把握できなくなってしまいます。
収支計画や建物の実態に即した大規模修繕工事にするためにも、管理会社だけでなく、マンション管理士や建築士などのコンサルタントからアドバイスを得ると良いでしょう。
また、コンサルタントには工事中の施工品質管理も依頼できますので、手抜き工事の防止目的としても効果的です。
大規模修繕のコンサルタント費用の相場は? 大規模修繕工事の品質管理の方法は?
3.施工業者選び
マンションの大規模修繕工事は、大手ゼネコンのほか、地域の建設会社やリフォーム会社、塗装業者などに依頼することができます。
あるいは、管理会社指定の施工業者に任せることも可能です。
しかし、施工業者選びでは、できる限り複数業者から見積もりを取り、総費用だけでなく工事の内容や項目ごとの費用差にも注意しながら、最も理想的な業者を見つける必要があります。
また、手抜き工事や施工不良に備えて、瑕疵保険に加入している点もチェックしておきましょう。
瑕疵保険とは、万が一瑕疵(かし、欠陥)が見つかった時に、業者の経営状況に関わらず補修費用が支払われる保険のことです。
瑕疵保険は、工事を行った業者が事業者登録をしていなければ加入できませんので、工事前に必ずチェックしておかなければなりません。
ただし、ここで注意しておきたい点があります。施工業者による談合やコンサルタントによる不正行為です。
業者の選定を入札によって行う場合にありがちですが、事前に金額を擦り合わせておいて高値で受注し、その分を分け合う行為です。
コンサルタントによる不正行為にも注意が必要です。コンサルタントには事実上施工業者を選ぶ権限があり、それをいいことにキックバックを要求することもあるようです。
いずれの場合でも本来ならもっと低い金額で施工ができたはずの工事が不当に吊り上げられたことになりますから、任せて丸投げではなく事前に実績等をよく調べておきましょう。
相見積も談合を回避する一つの手段ですが、不正行為を嫌う業者や同団体も見受けられます。評判や実績と併せて調べてみるのも方法でしょう。また実際にプレゼンテーションしてもらって見極めるのも有用です。
悪質!管理会社が提出する各工事会社の相見積もり資料は注意が必要!
最近では管理会社が複数社に見積もり依頼をして、A社,B社,C社,D社というような形で横並びで見積もり金額を資料として出してくることがあります。
しかし、実際に全ての会社に見積もり依頼をしているかは不明瞭であり、一番安い見積もり金額の会社は管理会社と繋がっていることがほとんどで、その会社に誘導するための資料となっています。
誠に残念ですが、管理会社はこのように不誠実なことを平気で行うので工事会社の選定は必ず、管理組合が直接工事会社に問い合わせをし、見積もりをお願いしてください。専門家による現地調査・見積もりの提出は、ほとんどの工事会社が無料で行ってくれます。
ご自身のマンションの地域に対応している評判の良い工事会社を無料で紹介することも可能ですので、お気軽に下記お問い合わせフォームよりご相談くださいませ。
4.マンションの建物診断・検査
どのような工事が必要か、目視や打診、器具による検査などで、マンションの現状を調査・診断します。
この診断の結果に基づいて、大規模修繕工事の費用や工事期間が決まりますが、より実情に即した工事となるよう、住民にアンケートを取り、住民目線で気になる箇所をピックアップする作業も大切です。
5.費用の確認
収支計画に対し、施工業者から提案された工事費用が妥当かどうかをチェックします。
修繕積立金だけで足りない場合は、居住者から一時金を徴収したり、住宅ローンを組んだりして費用を用意することができます。
不足分が一時金で賄える場合はそれで良いのですが、金額によってはそれでも間に合わないこともあります。住宅ローンにしても返済していく必要があり、修繕積立金と併せると高額な負担になりかねません。
そのような場合には、工事内容を見直すことも選択肢です。緊急性の高い工事を優先し、それ以外を次回以降に行うことで当面の費用を抑えることはできます。
しかしこれは先送りしただけですから、管理費用も含めた修繕積立金の抜本的な見直しを行う必要があります。
6.居住者との合意形成
すべての計画がまとまった段階で、大規模修繕工事の実施について、居住者からの合意を得ます。
「なぜこの費用でこの工事が必要か」といった基本的な説明だけでなく、居住者の生活に生じる制約などについても説明し、納得してもらえるような資料を揃えておきましょう。
なお、最終的な大規模修繕工事の実施については、総会を開いて決議します。
大規模修繕工事の基本的な進め方
大規模修繕工事が開始するまでには、工事計画書の作成や工事説明会の開催など、いくつかのステップを踏む必要があります。
大規模修繕工事の基本的な流れ
大規模修繕工事は、以下のように進みます。
- 1.管理組合と施工業者で工事契約の締結
- 2.工事計画書の作成
- 3.工事説明会の開催
- 4.各部位の工事
- 5.完了時の立ち合い検査
管理組合の方必見!マンションの大規模修繕工事の進め方や流れは?
トラブル回避のための工事説明会
大規模修繕工事のトラブルといえば、工事中の騒音や異臭、生活の制約などが代表的です。
これらはいずれも、工事業者との打ち合わせ不足や、居住者への説明不足が原因で起こります。
あらかじめ居住者には大規模修繕工事のマニュアルを渡し、一時的に使えなくなる箇所とその期間や、騒音や異臭が発生する時間帯について周知しておかなければなりません。
大規模修繕の工事内容
大規模修繕工事では、主に以下の順番で工事が進みます。
- 1.仮設工事(作業員の事務所や足場など)
- 2.下地工事(破損箇所の補修や高圧洗浄など)
- 3.外壁工事(塗装やタイルの張替えなど)
- 4.鉄部塗装(手すりやフェンスなど)
- 5.防水工事(屋上やバルコニーなど)
- 6.完了検査
- 7.撤収作業
入念な準備が大規模修繕工事を成功させる鍵
大規模修繕工事がすべて完了するまでにまでは、長い準備期間も必要です。通常、大規模修繕工事の計画から工事完了までは、約2~5年近い期間を要します。
工事の流れを把握しておくことはもちろん、そのためにどのような準備が必要か、費用が不足することはないか、工事によって住民の生活に不便が生じないかなどもチェックしておかなければなりません。
大規模修繕を含めたマンションの管理運営の主体は、あくまでも管理組合です。しかし委託を受けている管理会社でも大規模修繕の重要性は把握していますから、サポートを受けつつ修繕計画を詰めていきます。
同時に費用の妥当性について、客観的に判断する必要もあります。そのためには手間がかかっても複数社から見積書を取って比較検討してみることが重要です。
大規模修繕は実施サイクルの予想が可能ですから、費用不足にならないためにも十分な余裕をもって準備しておきましょう。修繕をスムーズに行うためにも費用の公開や居住者との認識の共有は欠かせません。
管理組合の通常業務を行いながら、大規模修繕工事の計画と実施を同時進行するのは非常に労力を伴いますが、前準備でできる限り不安材料を取り除いておきましょう。