大規模修繕工事の概要
建物は新築時から劣化が始まっていきます。
木造住宅、マンション等の鉄筋コンクリート造によって劣化具合は異なりますが、適切な時期にメンテナンスや修繕を行うことによって本来の機能を取り戻し、快適で安全な生活を取り戻すことが可能になります。
屋根や外壁の補修や塗装は風雨から住民を守ってくれますし、雨漏りによって建物全体が傷んでいくのを防いでくれます。
コンクリートの中を通る配管は生活に必要なものを運んでくれる重要なインフラですが、傷みや亀裂の放置は事故の原因になると共に、住民の安全安心を脅かします。
このような避けられない建物や設備の劣化を食い止めて安全安心で快適な生活を送るために、大規模修繕工事はなくてはならない工事だと言えるのです。
大規模修繕工事の期間や費用はどのくらい?
では、工事にはどのくらいの期間を要するのでしょうか。マンションの規模や戸数等によっても変わってきますが、2、3ヶ月から半年程度がおおよその目安となります。
費用については一戸あたり100万円前後と見ておくべきでしょう。工事内容にもよりますが、費用総額としては1,000〜3,000万円というところが大規模修繕工事の相場となっています。
こうした多額の費用が必要となる工事を劣化の目安とされる10〜12年ごとに行う必要があるため、大規模修繕工事には綿密な調査と計画性、十分な事前準備が欠かせません。
それを主体となって行っていくのが管理組合であり、組合員全体の協力が必要不可欠なのが大規模修繕工事なのです。
大規模修繕工事の大まかな流れ
大規模修繕工事の計画作りは1〜2年前から始まります。組合員の中で修繕委員会を組織しますが、経験者や詳しい住民がいるならぜひ加わってもらいましょう。
建物の劣化や傷み具合を知るために、まずは建物の現状調査を行います。この結果を元に修繕工事の箇所や内容を詰めていきますが、工事の見積もりを複数社に依頼して中身を検討していきます。
見積書を検討して施工業者を決定しますが、必要なら組合員を集めてプレゼンを行うことも選択肢に加えます。以後、施工までの間に説明会等を行って大規模修繕工事に対する情報を共有しておきます。
また重要なのが工事費用の確認です。修繕積立金で施工可能なのか、不足する場合はどう調達するのかなど、漏れなく対策を済ませておく必要があります。
実際に施工に取りかかる前には工事内容や注意事項を周知すると共に、近隣住民に対しても工事について説明しておく等の気配りが必要です。
この他工事中に起こるさまざまなクレームや問題点について、施工業者との間に立って仲裁する、連絡事項を告知するなど、必要に応じて対応していきます。
無事に工事が終了した後も、やることは少なくありません。完了した工事のチェックや確認、反省点をまとめておき、次回工事に改善すべき材料としましょう。住民からアンケートを取っても良いでしょう。
管理組合の役割は?
このように、大規模修繕工事は管理組合が主体となって取り組むものです。管理会社や施工業者に丸投げして、適切な費用で最適な工事は行えません。
マンションはそこに住む住民の大切な資産であり、生活の基盤となるものです。多額の費用と短くはない時間を費やして守るのは、自分たちの安全安心な空間です。
管理会社のサポートや手助けはあったとしても、自分たちの資産を守るために自分たちが協力して工事を行うのだという明確な意識が必要なのが大規模修繕工事だと言えるでしょう。
大規模修繕工事の工事内容は主に3つ
大規模修繕工事と聞くと、マンションのあちこちで大掛かりな工事が行われるイメージを持ってしまいますが、実際には、行われる工事内容はほとんど共通しています。
マンションの大規模修繕工事は、大きく3つの工事項目に分けて考えることができます。
- 1.建物の外装
- 2.共有部のリフォーム
- 3.付随工事
実際には、上記の他にも細かい工事項目が存在しますが、まずは、上記3箇所の工事内容や工事期間を管理組合で把握し、計画していきましょう。
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建物に必要な工事を劣化診断で調査する
大規模修繕工事には、基本的に発生する工事が存在しますが、下記すべての工事が、すべてのマンションで必ず必要になるわけではありません。
マンションにとって必要な工事項目を知り、修繕計画に反映させるためには、工事前の劣化診断で調査することができます。
劣化診断には、目視や打診による簡易なものから、器具を使った本格的な調査もありますが、信頼できる施工会社に調査を依頼し、作成された診断結果をもとに工事内容を見極める必要があります。
マンションの建物の外装工事と内容
建物の外装とは、マンション外壁に使われているタイルやコンクリートなどのことです。
外壁部材の隙間を塞ぐシーリングや、各住居に設置されているサッシ、屋上なども、外装に含まれます。
また、外壁や屋上を保護する塗装の塗り替えも、外装工事に含まれます。
外装工事は大規模修繕工事のうち最も序盤に行われ、一般的な中規模マンションで、約1~2カ月の工事期間となります。
外壁の補修工事
外壁の汚れや異物を高圧洗浄機で除去し、凹みや傷などを取り除きます。
浮きや欠けが生じているタイルがあれば、タイルを剥がしてモルタル接着剤を充填したり、新しいタイルに交換したりする工事が行われます。
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屋上の防水工事
屋上の防水工事では、塗装による塗膜防水または、シート圧着によるシート防水のいずれかが行われます。
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外装の塗り替え工事
軽量気泡コンクリートや吹付けタイルの外壁は、表面を塗装で保護しなければなりません。
塗料が剥がれていたり、チョーキングと呼ばれる白い粉が付着したりした状態は、塗料の効力が低下していますので、古い塗料を剥がして新しい塗料を塗装します。
また、タイル外壁は表面を塗装する必要性はありませんが、美観保持や防水性向上のため、クリヤー塗料と呼ばれる無色の塗料で塗装することがあります。
シーリング打ち替え工事
打ち替え工事とは、古いシーリングをカッターなどで取り除き、新しいシーリング材を充填する工事のことです。
樹脂のシーリングは、紫外線や雨のダメージで劣化すると、ゴムの部分が裂けたり縮んだりして、そこから雨水や害虫が侵入する恐れがあるため、塗装と併せて補修しておく必要があります。
サッシの改修工事
単層ガラスのサッシを複層ガラスに交換したり、アルミサッシを樹脂サッシに交換したりすることで、建物の断熱性を高める改修工事が可能です。
サッシの改修は、ガラスのみを交換する方法と、サッシの枠ごと交換する方法がありますが、共有部であるサッシの改修は、変更には区分所有者の過半数、または4分の3以上の賛成が必要ですのでご注意ください。
マンションの共用部のリフォームと内容
共用部とは、廊下や手すり、階段、駐車場、エレベーター、設備の配管などです。
また、各住戸のバルコニーやベランダも共有部に含まれます。
共用部のリフォームは手を加える範囲にもよりますが、中小規模のマンションで約2カ月、高層マンションになると約3カ月以上の工事期間になることがあります。
廊下の補修工事
床や壁の剥がれ、カビ、漏水などが起きている廊下は、シートの張替えや塗装によるリフォームが可能です。
玄関扉の補修工事
玄関扉のうち、廊下側は建物の美観に含まれることから、共有部と考えるのが一般的です。
玄関扉の補修は、表面の塗装のほか、カバー工法で新しい扉を既存の枠の上から取り付ける方法があります。
鉄部の再塗装工事
サビで老朽化しやすい鉄部は、約5年に1度は表面の再塗装が必要です。
共用部の鉄部には、階段やバルコニーの手すり、外階段、シャッター、電気メーターや放水口格納箱などがあります。
給排水管設備の交換工事
給排水管設備は、漏水や詰まりを防ぐために、約15~20年に1度を目途に、交換や点検が推奨されています。
エレベーター改修工事
エレベーターは、メーカーの部材生産停止や耐用年数超過に伴い、約25年を目途に交換を余儀なくされることがあります。
エレベーターのうち、制御盤やボタンといった部材の交換や、カゴ内部の内装リフォームのみで済む工事もありますが、カゴを含めたシステム全体を交換すると、高額な費用が発生します。
ベランダ・バルコニーの防水工事
ベランダ床の防水塗装工事を行います。
工事期間中は、住居の窓がビニールシートで養生され、室外機を取り外されることもありますので、必ず具体的な実施期間を住民に知らせておきましょう。
マンションの付随工事の内容
付随工事とは、大規模修繕工事を行うにあたって発生する、足場設置工事や仮設工事などのことです。
足場設置工事
高所で作業が行えるように、足場を設置します。
階数が10階に満たないマンションであれば、地上から鋼材を組み立てて作る枠組み足場を設置し、建物全体に張り巡らせるまでには約2週間程度の期間を要します。
10階以上のマンションやタワーマンションになると、枠組み足場では風の抵抗を受けて作業が行えず、仮設に膨大な時間を要するため、高所からゴンドラを吊るして作業が行われます。
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仮設工事
作業員の事務所や、大規模修繕工事の内容を住民に知らせる特設ブースの設置費用です。
その他、養生や駐車場の誘導灯設置工事なども仮設工事に含まれます。
仮設工事は約1週間以内で完了します。
大規模修繕工事の工事内容はほぼ決まっている
施工会社や管理会社から提出される見積もりを見ても、建築やリフォームの知識がない管理組合だけでは、内容をイメージすることができません。
また、管理会社に施工会社選びを任せると、管理組合や居住者の意思が反映されず、不本意な工事内容になってしまう恐れがあります。
しかし、管理組合に専門家がなくても、大規模修繕工事で基本的に発生する工事の内容を、ある程度把握できていれば、施工会社からの説明を理解する足がかりとなります。
管理組合だけで業者との交渉を有利に進め、適正な料金で満足のいく大規模修繕工事にするためにも、管理会社任せにせず、大規模修繕工事の知識を収集しながら長期修繕計画に反映させていきましょう。
悪質!管理会社が提出する各工事会社の相見積もり資料は注意が必要!
最近では管理会社が複数社に見積もり依頼をして、A社,B社,C社,D社というような形で横並びで見積もり金額を資料として出してくることがあります。
しかし、実際に全ての会社に見積もり依頼をしているかは不明瞭であり、一番安い見積もり金額の会社は管理会社と繋がっていることがほとんどで、その会社に誘導するための資料となっています。
誠に残念ですが、管理会社はこのように不誠実なことを平気で行うので工事会社の選定は必ず、管理組合が直接工事会社に問い合わせをし、見積もりをお願いしてください。専門家による現地調査・見積もりの提出は、ほとんどの工事会社が無料で行ってくれます。
ご自身のマンションの地域に対応している評判の良い工事会社を無料で紹介することも可能ですので、お気軽に下記お問い合わせフォームよりご相談くださいませ。