安全と資産価値維持のために必要なマンションの大規模修繕
大規模修繕は、マンション全体の修繕を行う工事です。
どんなマンションでもあらゆる箇所が年々少しずつ劣化しています。住民や近隣の方の安全を守るため、マンション自体の資産価値を維持するために必要な工事が大規模修繕なのです。
大規模修繕を行うペースはおよそ12年ごと、工事の期間は3〜6ヶ月(大規模マンションやタワーマンションなどであれば1年以上)ほどになります。
大規模修繕で工事を行う箇所
大規模修繕工事では、マンション全体の様々な箇所で工事が行われます。
それぞれの補修箇所の費用相場を知ることができれば、大規模修繕工事全体の費用が予測しやすくなります。
大規模修繕工事の工事内容
大規模修繕工事の工事箇所は主に以下に挙げるものになります。
- 外壁関連工事
- 給水管、排水管、水道管の工事
- ベランダ、バルコニーの工事
- 屋上防水工事
- 玄関ドアのリフォーム工事
- 共用内部の補修工事
- 工事諸費用
通常、ほとんどのマンションでは、築年数約10年前後に、
- 外壁関連工事
- 防水工事
を行うことになります。
築20年など、ある程度築年数が経ったマンションになると、給排水管や、玄関ドアの交換、エントランスや廊下など共用部リフォームも検討が必要です。
大規模修繕の工事内容は? 分譲マンションの玄関ドアの交換費用・価格は? マンションのベランダの大規模修繕費用は?
また、建物に架ける足場や、作業員の仮設事務所を設置する費用、産廃処分費用なども、大規模修繕工事の費用に含まれます。
大規模修繕工事の費用・価格相場
まずは、東京都が平成25年に実施した調査結果をご紹介します。
マンションの大規模修繕工事費用は、約1,000~3,000万円が最も多い結果となりました。
1戸当たりの工事費は、約60~90万円が目安の相場となっています。
平成29年に国土交通省が行なった大規模修繕の調査結果も見てみましょう。
大規模修繕の合計費用は、2,000〜4,000万円かかったマンションが最多で、その中でも3,000〜3,500万円かかったマンションが特に多い結果となりました。
1回目の大規模修繕の場合、1戸あたりの平均負担金額は100万円です。この費用は回数を重ねるごとに減少する傾向があります。
費用内訳も回数を重ねるごとに変化します。
回数に関わらず費用の割合が大きいのは、外壁関連工事(24.0%)、防水関連工事(22.0%)、仮設工事(20%)です。
給水設備工事は1回目は約5%であるものの2回目には約10%、建具・金物工事は2回目までは5%以下であるものの3回目には10%以上を占めています。
しかし、建物の外壁面積や劣化状況によって、実際の工事費用は変動するため、上記の総額や戸当たり工事費用は、あくまでも目安の金額です。
例えば、タワーマンションであれば1戸あたりの負担金額は150万円が目安となります。200万円ほどになることも珍しくありません。
実際に今回ご紹介した2つの調査結果でも、母集団が違うことにより結果が大きく異なっています。
大規模修繕工事の費用相場を、より具体的に予測するためにも、工事内容ごとの費用相場も把握しておきましょう。
外壁関連の工事の費用相場
※いずれも平方メートルあたりの費用です
- 外壁塗装費用:約3,000~7,000円
- 補修工事費用:約1,500~6,500円
- 鉄部の防錆工事費用:約1,000~3,000円
ほとんどのマンションの大規模修繕工事において、最もメインで行われる作業が、外壁関連の修繕工事です。
大規模修繕工事の総費用に対して、塗装工事費用は全体の約3割を占めます。
外壁の修繕箇所は、外壁表面の塗装の塗り替え、外壁タイルの浮きや欠けの補修、モルタルやコンクリートのひび割れの補修などです。
マンションの外壁タイルの補修費用は?浮きや剥がれ、落下を放置すると危険?
塗装工事は、塗料のグレードが上がるほど部材価格も高くなり、補修工事も、サビやひび割れなどの経年劣化が進行しているほど、価格や費用が高額になっていきます。
給水排水設備の工事費用相場
※マンション1棟あたりの工事費用の目安です
- 給水管の補修費用:約120万円
- 排水管の補修費用:約140万円
- 給水ポンプ交換費用:約80~200万円
一定の築年数が経過したマンションでは、経年劣化が生じた給排水管の補修も、外壁に次ぐメインの工事となります。
給水管工事を行う場合は、仮設ホースの設置が必要になり、排水管工事中は、入居者は水道が使えなくなります。
そのため、これらの設備工事を大規模修繕工事で実施する時は、入居者へスケジュールや工事内容をしっかり説明しておかなければなりません。
ベランダ・バルコニー工事費用の相場
※平方メートルあたりの工事費用です
- 手すりの防錆塗装:約1,000~3,000円
- 排水管の補修費用:約140万円
- 床面FRP防水工事:約6,000~9,000円
避難経路としても使われるベランダやバルコニーは、床のひび割れや手すりの腐食など、安全性や耐久性に関わる箇所を重点的に点検します。
約8平方メートルの平均的なバルコニーの床防水工事であれば、戸当たり工事費用は約5~7万円となります。
屋上防水工事費用の相場
※平方メートルあたりの工事費用です
- アスファルト防水工法:約5,000~8,000円
- シート防水工法:約3,000~6,500円
このうち、アスファルト防水工法は、屋根の重量が重くなるため、主に、鉄筋コンクリート造マンションの屋上で行われます。
屋上の防水を怠ると、マンション全体の雨漏りや漏水に繋がり、マンションを支える鉄筋の腐食や、建物の耐久性低下などにもつながりかねません。
ひび割れの補修や、部材の継ぎ目の補修といった防水工事は、塗装工事における、下地補修の過程で行われることもあります。
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玄関ドアリフォーム費用の相場
- 玄関ドアの鉄部塗装:約1,000~3,000円/平方メートルあたり
- 玄関ドア表面の塗装:約3~8万円/1戸あたり
- ドア交換費用:約20~35万円/1戸あたり
- ドア付帯部補修費用:約5,000~10万円
大規模修繕工事における玄関ドアリフォームは、表面の塗装や、インターホンやドアスコープとった、付帯部の補修に留まる傾向にあります。
ドアの交換が必要な場合は、既存のドア枠を残し、上から新しい枠をかぶせて、新しい扉を取り付ける「枠かぶせ工法」を行うのが一般的です。
共用内部の補修費用相場
- 照明のLED化費用:約3,000~6,000円/1箇所あたり
- エントランスのオートロック化費用:約50~130万円
- エントランスの自動ドア設置費用:約70~180万円
- 階段手すりの取り付け費用:約20~50万円
エントランス、屋内廊下、集会室など、多くの入居者が毎日利用する屋内共用部は、入居者のニーズや年齢層に合わせたリフォームが推奨されます。
このほか、集会室の改装や監視カメラ設置、郵便受けの交換なども、共用部で行われることの多い工事です。
劣化診断費用の相場
- 約30戸以下のマンション:約15~40万円
- 約50戸のマンション:約30~50万円
- 約100戸のマンション:約30~80万円
- 約200戸以上のマンション:約50~100万円
建築面積が大きいマンションは、劣化診断を行って、修繕が必要な箇所を見つけていく必要があります。
劣化診断は、施工会社や、マンション管理士などのコンサルタントからアドバイスをもらえる、無料の簡易診断もあります。
しかし、コンクリートの耐久性など、検査器具を使わなければわからない劣化は、有料の劣化診断が必要です。
工事諸費用の相場
※約1,000~3,000万円規模の大規模修繕工事の場合
- 現場事務所仮設費用:約10~20万円
- 足場設置費用:約300~400万円
- 安全対策費用:約20~50万円
- 産廃処分費用:約10~70万円
足場には、鋼材を組み合わせて作る枠組み足場、ゴンドラ足場のほか、無足場工法などがあります。タワーマンション以外の中規模マンションでは、枠組み足場の設置が一般的です。
タワーマンションの大規模修繕工事費用は? マンション大規模修繕の足場の費用や単価は?
なお、無足場工法でも、作業員の命綱や転落防止ネットを設置しなければならないため、足場代が0円になるわけではありません。
長期間におよぶ大規模修繕工事をスムーズに行うために、はじめに仮設の現場事務所が作られます。マンションエントランスの一角にパーテーションで区切ったり、集会室を利用したりして作られることもあります。
安全対策費とは、工事期間中に配備する、常駐警備員の人件費や、誘導看板やバリケードといった安全設備の設置に要する費用です。
そして、大規模修繕工事で発生した、設備の梱包資材や、解体した建材といった産業廃棄物を処分する費用が、産廃処分費用です。
コンサルタントへの報酬
- 工事費用の約5~10%
大規模修繕工事は、管理会社に修繕を一任することも、管理組合主導で施工会社を選ぶこともできますが、専門家の協力のもと進める「設計監理方式」も選ぶことができます。
「設計監理方式」とは、設計事務所やマンション管理士といったコンサルタントに、大規模修繕工事の計画や、工事会社の選定や、工事期間中の現場管理などを任せるものです。
コンサルタントを利用することができれば、建築の専門知識がない管理組合でも、修繕計画が立てやすくなるだけでなく、第三者の視点も加わるため、工事期間中の手抜き工事防止にも繋がります。
修繕工事自体は、施工会社が行いますが、これらの業務をコンサルタントに委託した場合、相応の報酬を支払う必要があります。
大規模修繕の適正な工事費用はどのように調べるのか
建物診断を行い、それに基づいて決定した工事内容によって大規模修繕の費用が決まります。
外壁の劣化診断、給水管と排水管の劣化診断、耐震診断、利便性のチェックなどが挙げられます。
建物診断の具体例ですが、外壁であれば壁を叩いた時の音を調べる打音調査、タイルを引っ張ることで強度を調べる付着力試験などを行います。
専門家の目と専用の機械が必要になるため専門業者へ依頼が必要となりますが、この際管理会社に任せきりにしないようにしましょう。
管理会社や管理会社の斡旋業者は建物診断を無料で請け負ってくれることも多いですが、公平性が保証できません。
そのため、劣化診断の段階から、管理組合や修繕委員会がコンサルタントや施工業者を選定することがおすすめです。
住民自らが簡易的に劣化状態を調べる方法もあります。
塗装部分に触れると白い粉が付く、廊下や階段の壁にひび割れがある、外壁に白い結晶が浮き出てきている、といったポイントです。
こうした状態は劣化が進んでいる証拠ですので、修繕の時期が近づいているか否かに関わらず劣化診断を依頼するとよいでしょう。
マンションの建物診断にかかる費用
建物診断はコンサルタントや施工業者にお願いすることになります。
建物診断自体は小規模マンションで20万円ほど、大規模マンションで50〜100万円が目安となります。
設計監理方式であれば、コンサルタントの費用も必要
設計監理方式であれば、コンサルタントに建物診断、工事内容の決定、工事の監理を依頼することになります。
コンサルタントに支払う費用は、1戸につきおよそ4万円となります。
50戸の小規模マンションであれば200万円、200戸の大規模マンションであれば800万円ほどになるイメージです。
大規模修繕工事の見積もりを比較する時のポイント
大規模修繕工事の費用は、施工会社から提出される見積もりで決まります。
しかし、施工会社選びを誤ったり、管理会社任せにしたりすると、工事費高騰や劣化箇所の見落とし、手抜き工事に気づかず、妥当性に欠ける見積もりを選んでしまう恐れもあります。
適切な施工会社を選ぶためにも、業者の見積もり内容を比較する時のポイントを知っておきましょう。
見積もりの金額は業者によって異なる
施工会社から提出される見積もりは、当然ですが完全に同じ価格にはなりません。
規模が大きなマンションになるほど価格の開きも大きく、最も安い見積もりを出した業者と、最も高い見積もりを出した業者間の価格差は、約2,000~4,000万円になることもあるほどです。
また、工事内容ごとの費用や価格も、施工会社によって異なります。
例えば、外壁の洗浄工事だけを見ても、約700万円という見積もりを出す業者もあれば、約1200万円という見積もりを作る業者もあります。
相見積もりで業者を比較しましょう
このように、選んだ業者次第で、数千万円の価格差が生じる大規模修繕工事では、複数の業者の見積もりを比較する作業が非常に重要な意味を持ちます。
もし、管理会社が指定した施工会社で即決してしまうと、他の業者に頼んでいれば、約数百~数千万円安く済ませられた工事費用を、余分に支払うことになってしまいます。
複数の業者から施工会社を選ぶ作業は、誌面での公募や業者のプレゼンテーションなど、多くの時間と手間を要しますが、少しでも見積もりの妥当性を高めるためにも、管理組合主導で施工会社を選ぶことをおすすめします。
業者からの見積もりを横並びで比較すること
施工会社が作成した見積もりを比較する時は、1社ずつ工事内容を比較するだけでなく、すべての業者の費用を、工事内容ごとに横並びの表にまとめて比較すると良いでしょう。
横並びにすることで、工事項目ごとに価格を比較しやすくなり、一社だけ飛びぬけて工事費高騰が起きていれば、すぐに見抜くことができます。
工事費高騰を見抜くことは、見積もり金額の妥当性を見極めるだけでなく、手抜き工事の防止にも役立ちます。
他社が相場価格で提示しているのに対し、1社だけ安い価格で提示していた時は、なぜ費用が他社の相場価格に比べて安いのか、打ち合わせの時に、金額の理由をしっかり確認しておきましょう。
悪質!管理会社が提出する各工事会社の相見積もり資料は注意が必要!
最近では管理会社が複数社に見積もり依頼をして、A社,B社,C社,D社というような形で横並びで見積もり金額を資料として出してくることがあります。
しかし、実際に全ての会社に見積もり依頼をしているかは不明瞭であり、一番安い見積もり金額の会社は管理会社と繋がっていることがほとんどで、その会社に誘導するための資料となっています。
誠に残念ですが、管理会社はこのように不誠実なことを平気で行うので工事会社の選定は必ず、管理組合が直接工事会社に問い合わせをし、見積もりをお願いしてください。専門家による現地調査・見積もりの提出は、ほとんどの工事会社が無料で行ってくれます。
ご自身のマンションの地域に対応している評判の良い工事会社を無料で紹介することも可能ですので、お気軽に下記お問い合わせフォームよりご相談くださいませ。
見積もりに対して修繕積立金が足りない場合
マンションの大規模修繕工事は、1回あたりの工事費用も高額ですが、回を重ねるごとに経年劣化の箇所が増え、修繕積立金が不足していく事態も十分に考えられます。
マンション管理士と相談しながら、大規模修繕工事に向けて、修繕積立金を計画的に見直すことができれば理想的ですが、業者に見積もり作成を依頼した後に、修繕積立金の不足に気づくケースもあるでしょう。
修繕積立金が足りない時は、区分所有者から一時金を徴収したり、管理組合向けの融資を受けたりすることができます。
ただし、一時金の場合、区分所有者全員から必ず集められるとは限らず、希望する費用に達しない恐れもあります。
また、融資に関しても、借入を断られるケースがあり、借入できたとしても、修繕積立金から返済していかなければなりません。
自治体によっては、大規模修繕工事の費用を助成する制度もありますので、一時金・借入・助成金の3つを上手く利用して、支払いの目途を立てていきましょう。
また、大規模修繕の内容や時期を見直すという選択肢もあります。
劣化が少ない箇所に関しては工事内容を簡素化する、必須ではないグレードアップを延期する、などです。
建物診断の評価が高いのであれば、工事の時期を先延ばしにして修繕積立金を貯めるための時間をつくってもよいでしょう。
将来の大規模修繕に向けて管理委託費の節約が必要かも
次回の大規模修繕積立金が足りなくなりそう、または大規模修繕までは時間があるけれどこのままでは十分な資金が集まらない、といった場合はどうすればよいでしょうか。
一般的には修繕積立金の値上げがまず候補に上がりますが、住民の同意を得るのは簡単ではありません。
管理委託費を節約するという選択肢もあります。
管理委託費の相場は一戸あたり15,000円前後と言われていますが、管理業務の見直しや管理会社の変更によって削減できる可能性があります。
施工会社決定後の流れ
見積もりを比較して施工会社が決定したら、その施工会社から正式な見積もりを受け取ります。
管理組合や修繕委員会で、工事内容の最終決定を行います。