修繕と改修の違いは?大規模修繕を検討しているマンション管理組合の方は必見です!

「修繕」と「改修」の違い

時に同じ意味として混同されがちな、「修繕」と「改修」ですが、厳密には異なる効果を指す言葉です。

「修繕」の内容

修繕は「元の状態に戻すこと」を意味します。

経年劣化によって汚れやコケが蓄積された外壁や、故障してしまった設備、錆びに覆われた鉄部やフェンスなどを、同じクレードのものと交換したり、汚れを落としたりすることで、元の状態に戻す工事です。

たとえば食洗機の調子が悪いので新しい物に交換する、剥がれた浴室のタイルを貼り替えるなどがこれに該当します。

マンションの共有部分の設備で劣化するものは?

そのほか、新築当時は生じていなかった、ひび割れの補修や雨漏りの改善といった防水工事も、マンションの大規模修繕で行われることの多い内容です。

「改修」の内容

改修には、ただ単に劣化を補修するだけでなく、「より良い状態にすること」という意味も含まれます。

修繕の目的が「元に戻すこと」であるのに対し、改修は、工事後に、マンション全体がこれまでよりもさらに良い環境となるよう、改良することを指しています。

そのため、耐震性能や断熱性能の向上や、警備システムの強化、より耐久性の高い塗料を使った外壁塗装など、建物のスペックを改良する工事が行われます。

あるいは、マンション住人の憩いのスペースを設けたり、子どもの遊具を敷地内に設けるといったリフォームも、住む人にとって建物の価値を高めた改良といえるでしょう。

たとえばタイル貼りの浴室をユニットバスに入れ替える、冬場のヒートショック対策として換気扇を換気乾燥機に取り替えるなども改修の範囲に含まれます。

また似たような言葉として補修がありますが、これは故障した部分やパーツなどを交換して以前の性能を回復させることを表します。浴室タイルの例で言うなら、剥がれた部分のタイルを貼り直す作業がこれに当たります。

では更新と言う場合はどんな意味を持つのでしょうか。この言葉は設備の更新というように使用されますが、たとえば古くなった排水管を新しい物に交換する場合などが更新に該当します。

排水管の故障箇所を直すのが広い意味での修繕になり、その箇所の部材を交換して直すのが補修です。

部材が劣化しているからと新品に交換するのが更新であり、錆びやすい銅管から錆びないポリエチレン管に交換するのが改修に近いイメージです。

マンションの改修工事とは?

大規模修繕工事に求められるもの

修繕と改修の意味を比較した所で、大規模修繕工事の定義を確認しておきましょう。

グレードアップが目的ではない

大規模修繕工事では、「改修」を目的としないため、工事後に、建物の耐震性能などを大幅にグレードアップする必要はありません。

ただし、マンション全体の経年劣化箇所を、いっぺんに修繕することができるため、住む人にも心地よく、外部からの評判もよくなるといった付加価値が得られることは言うまでもありません。

また、定期的に建物全体を修繕することによって、劣化の進行による、躯体の老朽化を未然に防ぎ、長持ちさせることがができるため、その意味でも、非常に大きな効果を持つといえるでしょう。

全体をまとめて補修すること

大規模修繕工事では、マンションの劣化箇所を、「全体的に」かつ「まとめて」修繕します。

工事箇所が広範囲におよび、工事期間も非常に長くなりますので、修繕費用の積立てや、劣化状況の診断、住人への説明など、管理組合では計画的に準備を進めなくてはなりません。

大規模修繕の工事期間は?

なお、建築基準法には、大規模修繕について定義している箇所がありますが、これは戸建て住宅におけるリフォームの内容となっており、マンションの大規模修繕工事を指すものではありませんので、区別しておきましょう。

マンションの大規模修繕工事とは?定義や意味まで徹底解説!

数回に分けて行うことも

このように大規模修繕工事では費用面や住人の生活面での負担が少なくないこと、また経年劣化の特性から、修繕箇所を分けて計画することもあります。

最初の修繕工事は外壁の補修や塗装工事、屋上などの防水工事を、次の修繕工事では設備や給排水管の補修や更新などを行うというように計画的に修繕工事を行っていきます。

これらはいずれもグレードアップが目的ではありませんが、築年数が古いマンションでは古くなった設備を最新のものに更新していく、グレードアップや省エネ化を目的とした工事が行われることもあります。

大規模修繕工事のメリットは?

では高額な費用をかけて大規模修繕工事を行う意義はどこにあるのでしょうか。

これは逆に捉えてみるとわかりやすいと思いますが、手入れや修繕工事のされないマンションは危険であるだけではなく、そのマンションを購入したい、住みたいという欲求を著しく損ねます。

マンションは住めれば良いだけではなく、安心安全で快適な生活を送れるものでなければ誰もそこに住もうとは思いません。ましてや投資したいなどと思うこともないでしょう。

マンションは管理を買えという言葉があるように、適切に維持管理されたマンションは築年数が古くても人気が落ちることなく一定水準の資産価値を保ち続けます。

立地やエリアなどの条件と共に住環境は住まいを選ぶ際の重要なポイントであり、そのためにも大規模修繕工事は欠かせないものなのです。

大規模修繕と大規模改修の費用差

元の状態に戻す「大規模修繕」と、耐震性能などの価値を付け加える「大規模改修」には、工事内容だけでなく、費用相場も異なります。

大規模修繕工事の費用相場

東京都が平成23年に行った「マンション実態調査」によれば、分譲マンションで行われた大規模修繕工事の費用は、総額約1000~3000万円が最も多い結果となりました。

調査が行われた分譲マンションのうち、大規模修繕工事が実施されたのは、全体の約70%、そのうち約35%が、約1000~3000万円の大規模修繕工事を行っています。

なお、次点で多い結果が、約3000~5000万円で、こちらも全体の22%と、決して少ない件数ではありません。

なお、賃貸マンションで行われた、大規模修繕工事の費用のうち、最も多いものは約100~500万円と、大きく違う結果となりました。

大規模修繕の費用は?調査結果をもとに相場と内訳を解説

大規模修繕で実施された工事

調査対象となった大規模修繕のうち、実施された件数が最も多い修繕は、外壁工事でした。対象となったマンションで、実に約85%以上が、外壁工事を実施しています。

分譲マンションの外壁塗装費用の相場は、

  • 3,4階建て:約500万円以下
  • 5,6階建て:約500~750万円
  • 7階建て:約850~1000万円以下

となっており、大規模修繕工事の費用全体を占めていることが伺えます。

マンションの外壁塗装の費用は?大規模修繕工事は必要?

次いで多いものが、「屋上や外壁の防水工事」と「鉄部の塗り替え」で、こちらも約80%と非常に多い数字となっています。

防水工事や鉄部の塗り替えは、外壁塗装の際に併せて行われるため、外壁塗装工事の相場費用に含まれていると考えてよいでしょう。

なお、防水工事は廊下やベランダでも、約70%のマンションで行われたことがわかっています。

マンションの防水工事費用は?屋上や外壁の大規模修繕を検討中の方必見!

排水管や給水管の修繕は、約15~20%と、全体の中では実施割合が低く、消防設備やエレベータ修繕などの実施件数と同じ割合に留まっています。

大規模改修工事の費用相場

マンションの大規模改修工事で行われる工事と、それぞれの費用相場は以下の通りです。

  • 耐震改修工事:約2~5万円/平方メートルあたり
  • 断熱改修工事:約18~20万円/1室あたり

例えば、3階建て9室で、延床面積が約300平米(約90坪)のマンションの場合、建物全体に耐震改修工事を行うと、費用相場は約600~1500万円という、非常に高額な金額となります。

耐震改修工事は、構造体の耐久性によって内容が変わるため、本来の耐震性が低く、構造体の劣化が進んでいるマンションほど、耐震改修費用は高額になります。

また、約50室のマンションで断熱工事を行った場合の費用は、約900~1000万円と予測することができ、こちらも決して安い費用ではありません。

改修費用をさらに高額にしないためには、管理会社まかせにせず、マンション管理士などのコンサルタントと打ち合わせながら、定期的に外壁工事や共用部の修繕を行っておくことが大切です。

大規模修繕のコンサルタント費用の相場は?

修繕箇所が少ないほど、大規模改修工事では、建物の性能を高める箇所にしっかり費用をかけることができるでしょう。

大規模修繕工事の手順

では大規模修繕工事をどう進めていけば良いのか、具体的に見ていきましょう。

修繕工事委員会を立ち上げる

マンションの大規模修繕工事は計画の作成から工事の完了、立ち合いまで長期渡って関わらなければならない大きな仕事となりますから、理事会とは別に専門部署を立ち上げます。

過去に大規模修繕工事に関わった組合員や経験者がいる場合、加わってもらうのも良いでしょう。もちろん修繕工事委員会に丸投げするのではなく、理事会や組合員と連携して活動していくことになります。

修繕工事の計画書を作成する

修繕工事委員会が大規模修繕工事の計画書を作成しますが、管理会社やコンサルタントの提案も参考に進めていきます。必要に応じて集会などでプレゼンテーションしてもらうことも検討しておきましょう。

計画の作成に際しては過去に行った工事の内容やマンションの現状を把握しておく必要があるため、建物の診断を行って修繕が必要な箇所や傷み具合、優先順位を明確にしておきます。

また組合員である住民からアンケートを取り、修繕箇所や要望を詰めておくことも有効でしょう。具体的な工事の実施時期を決定したら、施工会社の選定に入ります。

複数社から見積もりを取って比較検討する

修繕工事の見積もりは、可能な限り複数社から取って比較検討する必要があります。同じ施工内容なのに価格が異なるのは何故なのか、会社によってどんな特徴があるのかなどを検討していきます。

またアフターサービスや保証内容、万が一の場合の瑕疵担保保険の有無についても検討課題としておきたいところです。

こうした修繕工事の内容については素人では判断が難しい部分があるため、プレゼンテーションしてもらうことも検討しましょう。

施工会社を選定する

施工会社を選定したら工事の工程を具体的に詰めていくのと同時に、修繕積立金でカバー可能か、不足額はどの程度か算定しておかなければなりません。

追加徴収で補えない場合には、金融機関から借り入れることも選択肢に含めておきます。場合によっては、緊急性の低い修繕については次回の施工に組み込むことも検討しておきましょう。

施工に立ち会う

施工会社と工事請負契約を結んだら、工程に基づいて施工を実施していくことになります。実際の施工に際しては、極力立ち会って進行状況を確認します。

また施工に伴って騒音や臭いなど住民とトラブルが起こることもあり得るため、対応について事前に十分に準備しておくことも重要でしょう。

修繕工事が完了したら引き渡しになります。ここでも仕上がりを十分にチェックしておきます。図面や書類、注意事項などについては次回の工事の重要な資料となるので、大切に保管しておきます。

以上が大規模修繕工事の具体的な手順ですが、工事完了でおしまいにせず、施工具合や仕上がり、施工中の反省点などをアンケートで取得し、まとめておくと次回の修繕工事に役立てることができます。