タワーマンションの大規模修繕工事
2000年代に建築ラッシュが続いたタワーマンションは、資産価値が低下しはじめる築20年目に差し掛かり、大規模修繕工事が必要になりつつあります。
多くの居住者が生活するタワーマンションは、大規模修繕工事に要する費用もさることながら、居住者に負担をかけず、安全に作業を行うためのアプローチが必要です。
管理会社任せにせず、マンション管理士などのコンサルタントを活用して、管理組合主導で、しっかりと適切な修繕計画を立てて行きましょう。
マンションのタイプで大規模修繕工事は異なる
大規模修繕工事の内容は、建物のタイプで実に大きく異なります。
例えば、10戸前後の小規模な木造アパートと、1000戸が暮らす超高層のタワーマンションでは、工事面積や修繕箇所だけでなく、修繕費用や、大規模修繕の計画の立て方も全く異なります。
特に、タワーマンションの大規模修繕工事は、中小規模のマンションに比べると非常に高額です。
修繕積立金を無駄にせず、資産価値を維持するためにも、マンション管理士などのコンサルタントに相談し、工事内容や修繕が必要な箇所を正しく見極めなくてはなりません。
タワーマンションの大規模修繕工事の特徴
明確な定義はありませんが、約20階建て以上の高層の共同住宅を、タワーマンション、または超高層マンションと呼びます。
タワーマンションの工事では、建物面積が大きいことや、総戸数が多いことに加えて、「高さ」という課題をクリアしながら工事を進めなくてはなりません。
ゴンドラ足場の使用
タワーマンションの大規模修繕工事では、「ゴンドラ足場」を使用します。
通常、戸建て住宅や、3~5階建てアパートの大規模修繕工事では、鉄材を地上から組み立てて作る「枠組み足場」の仮設工事が行われます。
しかし、高さ約60mを越えるタワーマンションでは、枠組み足場の仮設工事だけでも長い工事期間となり、設置できたとしても、強風の影響を受けて、工具の落下や作業員の転落といった事故に繋がりかねません。
一方、屋上から電動昇降のゴンドラを吊り下げる「ゴンドラ足場」であれば、仮設工事期間を短縮でき、ゴンドラの中で安定して作業を行うことができるため、上層階の作業でも、作業員や工具の落下を防ぐことができます。
また、シート養生もゴンドラの周囲のみで済むため、建物全体が足場や養生ネットで覆われることがなく、工事車両の駐車場所が確保できなくなる恐れもありません。
さらに、工事車両に追いやられて駐車場が使えなくなったり、洗濯物が干せなかったり、足場から不審者が侵入したりする心配も少なくなり、居住者の生活への負担軽減にも繋がります。
タワーマンションの大規模修繕工事費用
戸数が多く建築面積も大きいタワーマンションは、補修箇所ごとの工事費用も高額になります。
築年数が比較的浅い、築10年目のタワーマンションでも、約10億円近い総工事費用となっても不思議ではありません。
戸あたり工事費用だけでも、約130~200万円となり、一般的なマンションの約2倍、アパートの約3倍の費用相場です。
そのため、もし、相場以上の費用で施工会社と契約してしまうと、適正価格で行えたはずの費用を無駄にしてしまったり、余分な追加工事で修繕積立金が不足したりする恐れがあります。
大規模修繕工事費用を適正価格で行うためにも、工事項目ごとの費用相場を知って、施工会社選定時の見積もり比較に役立てましょう。
外壁関連工事の費用
- 外壁塗装費用:約3000~5000円/平方メートルあたり
- 外壁タイル張替え費用:約500円/1枚あたり
- ひび割れ補修費用:約1~3万円/1箇所あたり
- シーリング工事費用:約1000円/平方メートルあたり
大半のタワーマンションの外壁は、メンテナンス性とランニングコストを考慮して、ALCパネルに吹き付けタイルで仕上げられています。
ALCパネルとは、軽量気泡コンクリート性のパネルのことで、吹き付けタイルとは、塗料を機械で吹き付けて、タイル風に仕上げた外壁のことです。
吹き付けタイルは、経年劣化とともに剥がれやひび割れが生じることがあるため、大規模修繕工事の際、外壁塗装を行う必要があります。
また、ALCパネル同士の継ぎ目には、シーリング材が充填されています。このシーリング材が劣化すると、隙間から雨水が浸水し、躯体の劣化に繋がるため、大規模修繕工事では特に修繕が必要な箇所です。
シーリング工事では、既存シーリングを工具で取り除き、新しいシーリング材を充填する「打ち替え」が行われます。
なお、メンテナンスが行いやすい低層階部分には、タイル材が張り付けられていることもあります。
タイル材は、外壁塗装の必要がない耐久性の高い外壁塗装ですが、強度が低下すると、タイルの浮きや剥がれが生じ、落下や欠けに繋がるため、こちらも大規模修繕の際に補修が行われます。
1枚あたりの張替え費用は約500円で行えますが、タイル外壁全面となれば、約100~300万円近い費用になるため、劣化が広範囲になる前に、早めの補修が必要です。
また、タイル材の浮きや剥がれは、紫外線や雨などの外的要因だけでなく、躯体の強度低下という深刻な理由で生じることもあるため、劣化診断で原因を究明しておかなければなりません。
足場費用
吊下げ式のゴンドラは、上層階から低層階への移動に時間がかかってしまいます。そのため、タワーマンションの大規模修繕工事では、低層階のみ、足場の仮設工事を行うことがあります。
- 足場仮設工事費用:約800~1000円/平方メートルあたり
吊下げ式のゴンドラ足場は、低層階まで移動する手間がかかるため、上層階の施工のみ使われることがあります。
- ゴンドラレンタル費用:約2~3万円/1台あたり
- ゴンドラ基本設置費用:約3~5万円/1台あたり
ゴンドラ足場の場合、足場を設置せずに済むため、仮設工事費用の大きな削減が可能です。
ただし、工事日数分のゴンドラレンタル料に加えて、ゴンドラ周辺のシート養生や、警備員の人件費など、安全対策費が別途発生するため、工事期間が長くなるほど足場費用は割高になります。
ゴンドラのレンタル料は、1日あたり約5000円が相場ですが、約1年かけて外装の補修を行ったと仮定した場合、レンタル費用だけで約250万円発生する恐れがあります。
防水工事費用
屋上と、各居室のベランダ・バルコニーの防水は、選択する工法が異なります。
ベランダ・バルコニーの防水工事費用
ベランダやバルコニーの防水工事は、下記2種類のうちいずれかの工法を選ぶことになります。
- 床面FRP防水工事:約6000~9000円
- ウレタン防水工事費用:約4000~6000円
約600戸のタワーマンションで、約8平方メートルのバルコニーすべてに防水工事を行った場合、約2000~4300万円の費用になると考えられます。
屋上の防水工事費用
屋上の防水工事は、下記いずれかを選んで行うことになります。
- ウレタン防水工事費用:約4000~6000円
- シート防水工事費用:約3000~6500円
- アスファルト防水工事費用:約5000~8000円
最も施工価格が高いアスファルト防水ですが、防水工法の中では最も耐用年数が長く、最も厚い防水膜を形成するため、頻繁にメンテナンスを行えない超高層マンションに適した工法です。
ウレタン防水とシート防水は、どちらも約10年前後で耐用年数を迎えますが、施工価格が安く、継ぎ目のない丈夫な防水膜を形成します。
マンションの防水工事費用は?屋上や外壁の大規模修繕を検討中の方必見!
玄関ドアの補修費用
玄関ドア本体に異常がなく、鉄部のサビ落としや表面の色あせ程度の劣化であれば、塗装のみで済ませることが可能です。
- 玄関ドアの鉄部塗装:約1000~3000円/平方メートルあたり
- 玄関ドア表面の塗装:約3~8万円/1戸あたり
一方、玄関ドアが歪んで開きにくくなったり、大きな凹みや傷が付いている場合は、ドアそのものの交換が必要です。
- ドア交換費用:約20~35万円/1戸あたり
- ドア付帯部補修費用:約5000~10万円
玄関ドアの交換は、既存の枠を残し、上から新しい枠とドアを取り付けるカバー工法であれば、約30万円前後で済みます。詳細は以下の記事を参考にしてください。
ただし、1戸だけ交換、または1戸を残して他すべてを交換すると、景観の低下に繋がるため、実施する場合は、1棟、または数フロアをまとめて行うことが推奨されます。
また、各部屋の玄関ドアは、「外側が共用部、内側が専有部」という考え方が一般的です。
しかし、共用部と専有部の境界を明確にしていないマンションも多く、居住者が独断でリフォームをしてしまった時や、故障した時などに、居住者と管理組合のどちらが補修費用を負担するかでトラブルになることがあります。
大規模修繕工事の際に、費用負担の割合を定義し、管理組合、または管理会社が負担すべき箇所は、ドアの交換や表面の塗装を済ませておくと良いでしょう。
エレベーターの補修費用
- エレベーター扉の補修費用:約2~3万円/一枚あたり
- エレベーター内部の補修費用:約15~70万円/1台あたり
- エレベーター機器の補修費用:約80~90万円/1台あたり
エレベーター内部の内装は、壁・天井・床をどこまで補修するかで、価格差が生じます。
また、エレベーターの階数表示機能や耐震器具などの制御装置を交換すると、約100万円近い費用になります。
しかし、エレベーターに不具合があると、地震発生時や停電時に、内部に人が閉じ込められる恐れがありますので、大規模修繕工事の際に点検を済ませておくと良いでしょう。
エントランスの補修費用
- 鉄部の防錆塗装費用:約1000~3000円
- LED照明の交換費用:約6000円/1箇所あたり
- ポスト交換費用:約1万円/1戸あたり
- エントランス内装のクリーニング:約300~600/平方メートル
エントランスは、居住者全員が毎日使用し、外部の人の目にも留まる場所ですので、大規模修繕工事の際にリフォームを行うことが推奨されます。
しかし、エントランスのリフォームに力を入れすぎると、メインとなる外壁塗装工事や防水工事の予算を圧迫してしまいかねません。
マンション管理士などのコンサルタントに相談し、耐久性や利便性など、資産価値に繋がる箇所のみを重点的に実施しましょう。
コンサルタントへの報酬費用
- 総工事費用の5~10%
コンサルタントへの報酬は、コンサルタントがどこまで大規模修繕工事に介入するかで費用が変動します。
相場費用としては1戸あたり約2~3万円となることが多く、約600戸のタワーマンションの場合、コンサルタント費用は約1200~1800万円と考えられます。
ただし、コンサルタントの実働時間が少なければ、約1000万円以下に留まるケースもあります。
コンサルタントを活用すべき理由
管理組合で計画を進めずに、管理会社に大規模修繕工事を任せてしまうと、施工業者の見積もりの妥当性がわからないまま、高額な費用を払ってしまう恐れがあります。
一方、マンション管理士やマンションコンサルタントなどを利用すると、施工業者選びや工事の進め方について適切なアドバイスをもらうことができ、住民説明会や工事期間中の管理組合の仕事もサポートしてもらえます。
特に、実施する工事の数で修繕費用が大きく変わってしまうタワーマンションは、信頼できるコンサルタントと施工業者を選び、緊急性の高い箇所のみ修繕を行って、適正価格に近づけなくてはなりません。
悪質!管理会社が提出する各工事会社の相見積もり資料は注意が必要!
最近では管理会社が複数社に見積もり依頼をして、A社,B社,C社,D社というような形で横並びで見積もり金額を資料として出してくることがあります。
しかし、実際に全ての会社に見積もり依頼をしているかは不明瞭であり、一番安い見積もり金額の会社は管理会社と繋がっていることがほとんどで、その会社に誘導するための資料となっています。
誠に残念ですが、管理会社はこのように不誠実なことを平気で行うので工事会社の選定は必ず、管理組合が直接工事会社に問い合わせをし、見積もりをお願いしてください。専門家による現地調査・見積もりの提出は、ほとんどの工事会社が無料で行ってくれます。
ご自身のマンションの地域に対応している評判の良い工事会社を無料で紹介することも可能ですので、お気軽に下記お問い合わせフォームよりご相談くださいませ。
タワーマンションの修繕積立金が足りない場合
居住者から計画的に修繕積立金を集め、想定内の費用で工事を行うことも、管理組合の大切な仕事の一つです。
しかし、高額な工事費用を必要とするタワーマンションは、わずかな工事内容の違いで、高額な費用が必要にならないとも限りません。あるいは、思いがけない追加工事が発生し、費用が不足することもあるでしょう。
そのため、施工会社と話し合いが進むうちに、修繕積立金が足りないことに気づくというケースも、十分考えられます。
修繕費用の集め方は2つ
思いがけない修繕箇所の発見や、追加工事の発生など、万が一、修繕積立金が足りなくなった時は、区分所有者から一時金を徴収するか、管理組合名義で融資を受けることになります。
上記の2通りの方法は、大規模修繕を行う寸前で修繕積立金が足りないと発覚した場合の修繕費用不足分の集め方です。大規模修繕工事を行う数年前からきちんと長期修繕計画を立てておけば、このままでは足りないと分かった段階で毎月の修繕積立金を値上げすることも可能です。
一時金を徴収する時の注意点
大規模修繕工事の費用相場が約1億円と言われるタワーマンションでは、毎月高額な修繕積立金を集めている所も多く、一時金徴収に対し、居住者から強い反感を示される恐れもあります。
そのため、一時金を徴収する場合は、大規模修繕工事の必要性や、予算不足となった原因について、居住者に理解を求める姿勢が必要です。
融資を受ける時の注意点
大規模修繕工事には、専用のローン商品があります。
住宅支援機構が用意している「マンション共用部分リフォーム融資」の場合、戸あたり150万円、または工事費用の80%まで借りることができ、無担保かつ固定金利制のため、返済計画が立てやすい商品となっています。
また、一時金と併用することもできるため、区分所有者への一時金への協力を仰ぎやすく、借入額を減らして、返済に使う修繕積立金を軽減することも可能です。
なお、利用するためには、管理規約の内容や、大規模修繕工事について取り決めた総会議事録が、融資申し込みの条件を満たしていなければなりません。